週1ペースで映画を見る私が最終的に返ってくる『黒澤明監督』作品ベスト3。

今週のお題「映画の夏」

お題「映画」と聞いてソッコー思いつく作品。あります。

でもこれについて書き出すと、熱いですよ 暑苦しいですよ。

それでも大丈夫な方だけにされた方が、安全かもしれません。途中、熱帯びすぎて、ちょっと意味不明なところ、ありますが、ご了承ください。

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何のために映画を見るのか。

みなさんは何を求めて映画を見ますか?話題づくりのため。好きな俳優を見て癒されるため。エンターテイメントを楽しむため。得た感動を明日への活力にするため。見たことのない世界を映画で疑似体験してリフレッシュするため。内容が学びになるため…例をあげればきりがなく、こればっかりは、人によって様々だと思います。私も実際、その時々で映画に求めるものが変わってきます。仕事で疲れている時や迷っているときは、気持ちを切り替えてくれるような映画を。何も考えずただただエンターテイメントとして楽しみたい時は爽快なアクション映画でスッキリと。

でも、私にとって本当の映画を見る理由は、心と人生をより豊かにするためです。映像美が強烈に脳に刻み込まれるように美しく、内容も奥深い良い映画は、何度でも私の心と人生を豊かにしてくれるのです。

 

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どれだけ浮気しても必ず帰ってきてしまう黒澤明監督作品。

私は近頃はテレビはほとんど見ないのですが、映画は大好きで映画館・レンタル・WEB上のコンテンツ含めると、最近は週1ペースくらいで見ています。特にキネマ系映画が大好物。今まで、アカデミー、ポンパドール、ヴェネチア、カンヌ、ベルリンとたくさんある賞を受賞した作品もたくさん見てきましたが、やっぱり最終的に、好きな映画は何ですか?という話になると、必ず出てくるのは黒澤明監督作品です。黒澤作品の何と詩的な事か。映画というメディアを存分に活かした構成である事か。私は映画評論家では全くないですが、その映画の持ち味を存分に活かした強烈な映像美と心震わす感動は「世界の黒澤」と称されるのにふさわしと納得せざるを得ません。もう夏とは言わず、いつでも見て欲しいです。黒澤作品。

 

見た事ある人が少ない事実と、それでも前から興味はあった人が多い事実。

ファンにとっては悲しい事なのですが、私の周りには黒澤明監督作品を見たことある人が少ないのが事実です。けれども同時に「実は前から興味はあった」という人もたくさんいたというのも事実です。それを証明したのは、数年前に数回、「オールナイト黒澤」と称して黒澤明監督をオールナイトで上映するというイベントを企画した時に、想像以上に人が集まったことです。ほぼ私の趣味で「映画館ばりに大きな画面でいいスピーカーで黒澤作品を見たい!」という衝動から場所・スクリーン・スピーカーを借りて企画したイベント。人が来なくても、大画面で自分が映画を見られたらいい。と思っていたのですが、いざ開催すると、部屋がいっぱいになるくらいの人が集まりました。友人だけでなく、口コミや張り紙やチラシを見て来てくれた人もいたことにはさすがに驚きました。

気になるけど、何を見ればいいかわからないから重い腰が上がらない。

この不思議な現象を理解すべく、2回目以降は簡単なアンケートを書いてもらったところ「気になってたけど見る機会がなかった」「何を見ればいいのかわからなかった」という意見が圧倒的に多いことを知りました。確かにそうかもしれません。何の解説もなく、黒白で、聞き取りにくいフレーズや、見慣れない俳優、古臭いのではないかという先入観。いろんな要素が絡まって、せっかく見るなら、前にCMで見たあの映画!広告で張り出してたあの映画!好きな俳優が出てるこの映画!と、どんどん見る機会が遠ざかっていくのもうなずけます。ということで、映画イベント中にもやっていましたが、ちょっとでも黒澤明の世界をみなさんにも堪能してもらおうと、おすすめ映画ベスト3をご紹介したいと思います。

 

まず見て欲しいおすすめ黒澤映画ベスト3と見どころ。

3位:天国と地獄

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非常に大まかなあらすじ

叩き上げで成り上がった実業家の権藤の息子が誘拐されたと思ったら実は運転手の息子が誘拐されていた。犯人に身代金を要求されるが、その身代金を支払えば、密かに乗っとろうとしていた会社の株が買えず、そのまま地位も財産も失うことになる。はじめは人質を見捨てる判断を下すが、秘書の裏切りにより、身代金を渡すこととなる。結局人質は解放されるが、身代金は奪われ、犯人には逃走される。その後警察の科学捜査により犯人は追い込まれ逮捕。愉快犯である犯人の死刑が確定となる。その後犯人の希望で権藤は監獄にて犯人と面会するのだが…。

詳細はこちらをごらんください:天国と地獄 (映画) - Wikipedia

教科書にも出てきた「生きる」と迷ったのですが…あちらは知っている人も多いのと、「天国と地獄」の前半に当たるテンポのいいサスペンス劇は誰でも入り込みやすいと思ってこちらを3位に。有名なシーンとしては白黒映画の中で一部煙突の赤い煙りの演出。これは初めて黒澤映画にカラーが映ったということで話題になったシーンです。また、身代金が入ったバッグを走っている列車から投げ落とすというアイデアはその後しばらく社会現象にまでなったほどです。しかし、この作品の面白さ・奥深さはそういった表面的なものではなく、人は追い込まれるとどういう行動をとるのか、そしてその選択はその後どのような事態を招き、どう対処していくべきなのか。そんな、誰にでもありうる出来事を監督の鋭い洞察力と表現力でまとめあげられた映画です。

人の子の命か自分の全財産か、非常に難しい立場に追いやられる権藤(三船敏郎)。最終は仕方なく自らの経済界での破滅の道を選ぶ形となります。その時の権藤の苦悩や深刻さは、オーバーなリアクションではなく、小な表情や目ですべてを物語っているんですよね。この演技力には感嘆です。さらにその後捕まった犯人。この犯人は元インテリです。医者の道の挫折を経験し、苦悩した末、このような犯罪に走ります。

そして忘れもしない最後のシーン。犯人の希望で権藤が犯人と監獄面会をするシーンなのですが、ちょうど権藤の後ろ頭側から、ガラスの向こう側にいる犯人と向き合っているような構図となります。その場で犯人は、自らの人生は、医学生としての道を途中で踏み外した地獄の人生であり、権藤の人生は天国であるという嫉妬を暴露し、絶叫し、刑務官に取り押さえられ、二人の間にシャッターが下ろされます。この間終始、もはや地位も財産もなくした権藤の表情は、ガラス板に反射した顔しか写りませんしピクリとも動きません。人生と共に狂ってしまった犯人の爆発するような感情と絶叫に、シンクロするようにガラス板に反射した権藤の顔がぼんやりと映り込みます。ガラス越しの強烈すぎる対比は、まさに天国と地獄のように、見るものを惹きつけるのですが、さらにこの監督の深いところは、単純な天国と地獄の対比ように見えて、実際はお互いがお互いに渦巻く憎悪と善悪をまるでシンクロするように抱えていたところにあるのです。

長くなりましたが、はじめはただのサスペンス劇なのかと思って楽しんで見ていたのですが、最後にまさかこんな強烈な生死をわかつ対比と深い意図を入れてくるとは、その絶妙なバランス感覚には衝撃を受けざるを得ません。堂々の3位作品です。

天国と地獄[東宝DVD名作セレクション]

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2位:夢

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大まかなあらすじ

実際に黒澤明監督が見た夢を元に作られている。「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨士」「鬼哭」「水車のある村」の8話からなるオムニバス形式。

詳細はこちらをごらんください。夢 (映画) - Wikipedia

こちらの作品は、是非映像美をお楽しみください。そのワンシーンワンシーンはすべて芸術写真のように洗礼されてて美しいです。私はこの作品を、幼稚園の時に金曜ロードショーで初めて見ました。その時は小さかったのでタイトルもわからず、一時間くらい見ていたらそのうちに寝る時間となりテレビを消されたのですが、その強烈な美しさと、現実世界のようで…現実世界ではない絶妙なバランス感は、ずっと脳裏に焼き付いていました。そのうち中学に上がった時に、また、この作品が金曜ロードショーでやっていたのを偶然見て「この見覚えのある美しい映像は…!」と、再開できたことに小な身震いを感じ、新聞のテレビ欄を見てみると「黒澤明監督 夢」と書かれていたのです。

まだ内容もろくにわからない頃に見た映像でしたがその印象深さを忘れられず、数年経った時の再開の感動は、今でも思い出せば興奮します。そんな映像美を是非体感してもらえると嬉しいです。

夢 [DVD]

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1位:赤ひげ

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非常に大まかなあらすじ

江戸時代後期の享保の改革徳川幕府が設立した小石川養生所を舞台に、文政年間の頃にそこに集まる、貧しい最下層で生きる病人たちと、そこで懸命に治療する医者との交流を描く。決して社会に対する怒りを忘れない老医師の赤ひげと、長崎帰りの蘭学医である若い医師との師弟の物語を通して、成長していく若い医師と貧しい暮らしの中で生きる人々の温かい人間愛を謳いあげた映画である。原作は山本周五郎赤ひげ診療譚」後半はドフトエフスキーの「虐げられた人々」を題材にしていると言われており、原作者の山本周五郎に「原作より良い仕上がりになっている」と言わしめたほどの作品。

詳細はこちらをご覧ください。赤ひげ - Wikipedia

私は映像美、物語の奥深さも含めて、こちらの作品が一番好きです。まるでブラックジャックである赤ひげは「社会が貧困や無知といった矛盾を生み、人間の命や幸福を奪っていっているという現実に怒りを覚える。貧困と無知さえ何とか出来れば病気の大半は起こらずにすむ。」「病気の影には、いつも人間の恐ろしい不幸が隠れている。」といったことを師弟医師に語ります。貧困患者の物語は数パターンのストーリーで出てくるのですが、どのエピソードも深く「生きること」「幸福とは」「一体どうすればよかったのか」と時には憤慨し、時には悲嘆しながら考えさせられます。まさに、病は貧困と無知と不幸が重なり合った時に発動するのです。

内容も然り、映像も本当に美しい。すべてのカットが絵画のように計算し尽くされた構図・動きで、見ているだけでもすばらしく楽しめます。印象的なシーンでは、遺族の死顔を見ながら、その半生を語る人。淡々と語るシーンでの映される映像はゆらゆらと不安そうに揺れる語り手の影。また、江戸時代頃、人は死ぬと魂は井戸の中に行くと信じられており、井戸を覗いてその人を呼べば、魂が帰ってくるといったような習俗が実際にあったのですが(私は大学で民俗学が専門でした)その魂を呼び戻そうとして声をかけるシーンの構図の美しいこと。また、唐草の大きな風呂敷が干されている中を走る人。死に人を囲む遺族の顔。配置。その他にも書ききれないほどの美しい映像がこの作品には散りばめられています。

長くなりましたが、内容だけでなく、映像美も必見の赤ひげ。是非お気に入りのワンシーンを見つけてください。

赤ひげ[東宝DVD名作セレクション]

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同じ「映画を見る」という時間を使うのであれば、より良質な映画に時間を使いたい。

時間は有限です。大切な時間を使うのであれば、せっかくならいい時間にしたいですよね。良質な映画は、心は豊かに、強いては人生も豊かにしてくれます。今よりもっと幸せな心にしてくれる映画。黒澤明監督映画はそんな映画の一つであると思います。