1984年 ジョージ・オーウェル 読了。感想文と世界観のまとめ
社会主義革命に引き続いて誕生したイングソックという思想をもとに
政治体制を敷いているオセアニアという国の全体主義的ディストピアを描いた作品。
このような監視管理社会を「オーフェリアン」と呼ぶそうである。
ジョージオーウェル(1903年6月25日 - 1950年1月21日)
イギリスの作家・ジャーナリストである。この作品は1949年に書かれた。
当時、スペインでは王政が倒れ、内戦が起きていた。
オーウェルは1936年にスペインに赴き「新聞記事を書くつもり」でいたがバルセロナでの「圧倒的な革命的な状況」に感動して、フランコのファシズム軍に対抗する一兵士として戦線参加する。
1937年1月トロツキズムの流れを汲むマルクス主義統一労働者党(POUM)アラゴン戦線分遣隊に伍長としてであった。
オーウェルは、そこで人民戦線の兵士たちの勇敢さに感銘を受ける。
また、ソ連からの援助を受けた共産党軍のスターリニストの欺瞞に義憤を抱いた。
by Wiki ジョージ・オーウェル - Wikipedia
その後怪我により帰国したオーウェルはスペイン戦線に関する作品と、スターニストの実態を風刺した作品「動物農場」と社会主義を引き継ぐ世界を描いたSFである「1984年」を発表する。
感想…
それまでの体制・歴史の循環・思想の台頭の一連の流れがわかりやすく説明されていたのが勉強になった。それも、物語の中に出てくるので、抵抗なくすんなり入ってくる。
また、これまでの実際の歴史を踏まえた上で「新しく台頭した思想」として描かれているので、妙な納得感がある。
実際にこんな社会・思想が出てきてもおかしくないかもしれない。
科学すら必要なく、白を黒とも信じきるなんてことは、常軌を逸した行動にも思える。でも、ほんの少し前まで地動説ではなく天動説が世界の常識だったし、未だに信じている人がいるのは紛れもない事実であるからだ。結局、何を教育するかで世の中の価値観なんてものは簡単に変わってしまう。
SF作品にしては、社会が抱えている矛盾や、循環される愚かな歴史の本質を捉えた世界観であるため、非常に身近な現実であるかのような作品だった。
…
とにかく、世界観を理解するためにも本の紹介以下の所ににまとめてみました。
ネタバレも入っているので、ご注意ください♪
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
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■1948年の世界観について
〜舞台となるオセアニアの国が現体制で出現した背景〜
⑴愚かにも繰り返されてきた歴史
新石器時代末以来
世界では、上層・中間層・下層の3つの層の人々が存在していた。
時代によって変化はあるものの、本質的な構造は決して変わらなかった。
それぞれの層の目的
上層…現状維持
中間層…上層と入れ替わること
下層…あらゆる差別を撤廃し、万人が平等である社会を作り出すこと
(もっとも、単調な労働によって過度なまでに虐げられているので日常生活以外の事柄に興味を持つ余裕がないことが昔からの特性となっているため、目的を持っているかが不明である)
繰り返されてきた歴史(革命)
①「自由・正義・友愛」といった言葉を利用し、下層を味方につけた中間層が上層を打倒する
↓
②目的を達成した中間層は、結局下層を元の隷従状態に戻し、自らを上層に転じ、専制君主制が確立される
↓
③程なく新しい中間層が、上層か下層グループから生まれる
↓
①に戻る。
結局、3つのグループのうち、下層グループだけは目的達成に成功した試しがない。
数世紀前に比べ一般の人々は物質的に恵まれた生活を送ってはいるが、人々の不平等は減じてはいない。
1800年代後半になると…
①→②→③の各階層間の入れ替わりパターンを踏まえ、歴史とは循環プロセスであると解釈し、不平等は人間社会における不変の法則だという思想家までも現れる。
⑵繰り返されてきた歴史を踏まえて台頭してきた社会主義の理論
その一方1800年代初めに社会主義理論が台頭。
古代ローマの奴隷反乱に始まる一連のユートピア理想の最終形態である。
しかし1900年代あたりから登場する社会主義の変種はいずれも、公然と自由と平等を破棄する。非自由・不平等を永続させるという意識的な狙いがあった。
意図的に、上層が自分たちの地位を永久に維持できるような戦略に出たのだ。
そもそも社会主義という新しい運動が現れた理由。①②
①19世紀以前にはほとんど不可能だった歴史の知識と蓄積と歴史感覚の発達による。
歴史の循環運動が理解されるようになったことによって変えることができるようになったのだ。
②根本的原因として、20世紀初頭、機会生産の発達により、人間の平等が技術的に可能になったことによる。*1
⑶様々な革命・新しい運動の果てに…
法も野蛮な労働もなく、人間が友愛で結ばれた状況で生きる地上の楽園という想像は人類を何千年も虜にしてきた。
よって、初めは、フランス・イギリス・アメリカ革命の後継者たちは、自らが使っている人権・言論の自由・法の前の平等といった事を信じ、それに影響された行動をとったりもした。
↓
しかし、人間の平等が技術的に可能になったことにより、権力を握りかけている中間層からすると、「自由・正義・友愛」はもはやそれを目指して努力する対象ではなくなり、むしろ避けるべき危険となる。
↓
1940年頃には政治思想の主流は、階級制と厳格な統制化による権威主義に関するものに立ち戻っていった。
1930年頃から社会状況全般が厳しくなる中で、長い間取りやめになっていた幾つかの習慣〜裁判抜きの投獄・捕虜の奴隷化・公開処刑・人質の利用・強制移送など〜が一般的になる。
⑷上層が自分たちの地位を永久に維持するための戦略
現在の体制における国民の意識
現在の体制の貴族階級は、もともと中流階級に属する給与生活者か労働階級の上層を占めた人たちとなる。
その中でも過去との相違点は以下。
過去…熱意に欠けた非効率的なもの。問題は未解決のまま放置。市民の考えには注意を払わなかった。むしろ市民を監視下に置くだけの力がなかった。
現在…自分たちの行動についての自覚が強く、反勢力を叩き潰そうという熱意が強烈。
過去と比べ、現在の体制が可能になった要因
・印刷や映像などメディアの発達により、世論の操作が容易になったからであり、技術の発展によって、情報の発信のみならず受信も可能になった。それによって常に警察の監視下に起き、私的な生活といったものが終わりを告げる。
・国家の意思に完全に従わせる・あらゆる事柄についての意見を完全に画一化するという可能性が初めて生まれた。
私有財産の廃止・富の分配
1950、1960年代の革命の時代を経て、人々は再度、上層・中間層・下層に再編され、私有財産の廃止が実施される。
富と特権は共有した場合に、最も護りやすくなるからだ。
過去との違いは以下。
過去…富の所有者が個人
現在…新しく富の所有者があるグループ(党)
個人としては党員はわずかな手荷物以外何も所有していないが、集団としては、党がオセアニアにある全てを所有しているという図が出来上がるのだ。
資本家はあらゆる富を没収され、結果、経済上の不平等は恒久化される。
その他、階級社会の永続化に関する問題
ある支配グループが権力を失う方法は4つのみ
①外部勢力による征服
②無能な統治によって大衆を反乱へと駆り立てる
③不満を抱えた強力な中間層グループが出現する
④統治に関する自信や意欲を自ら失ってします
普通は、単独で作用することはなく、普通は4つ全てが大なり小なり関わってくる。
これら①〜④を防ぐことができる支配階級は、永久権力保持が可能と成る。
①の危険性は消滅した。世界を分類している3大国は現実に征服されることはない。お互いに戦争をすれば、お互いの国を消滅しうることを歴史から学んだため。
②の危険性も単に理論上での仮説に過ぎない。大衆が自発的に犯行することは決してないし、彼らが比較の基準を持つことを許されない限り、自分たちが抑圧されているという事実に気づきさえしない。機会技術の発達による過剰生産の問題も、継続的に戦争を遂行するという方策によって解決されているし、この策は、国民の士気を必要なレベルに調整するのにも役立つ。大衆の意識については、鈍化させるように仕向ければ、それで十分である。
真の危険とは③の、有能ではあるが、能力を生かしきれておらず、権力に飢えている人々の集団の中で、自由主義と懐疑主義が育っていくことである。つまりこれは教育上の問題なのだ。
〜舞台となるオセアニアの社会体制〜
⑴ヒエラルキー
トップ…B・B(ビッグ・ブラザー)
党中枢…党員600万人。総人口の2%以下と制限されている。国家の頭脳。
党外郭…総人口の18%。国家の手足に当たる。
プロール…声なき大衆。総人口のおよそ85%。下層グループに属する。
原則としてこれらのグループに属する資格は世襲制ではない。試験によって入隊する。支配者たちは血縁ではなく、共通の教義への信奉で結ばれている。*2
ただ、厳密に階層化されていることは事実である。
党中枢から党外郭への移行は滅多になく、あるとすれば、党中枢の弱者を締め出し、党外郭にいる野心家を昇格させて、無害化を図るための移動があるくらいである。プロレタリアに関しては実際問題として党に入る資格はない。プロレタリアの中で最も才能があり、不満分子の中核となる可能性のあるものは、思考警察にマークされ、消されるだけである。
党は血統の永続化にではなく、党自体の永続化に関心がある。
⑵各階層に対する考え
プロール(プロレタリア)に対する考え
プロレタリアについては恐る必要はない。彼らは、反抗したいという衝動は少しも持たない。世界は今と違ったふうになり得るものだということを理解する力を持たないままに、何世代も何世紀も、ただただ労働し、子供を産み死んでいく。彼らが危険な存在になり得るとしたら、工業技術の進歩によって、彼らにより高度な教育を施す必要が生じたときであろう。
しかし、現在、軍事競争、商業上の競争はもはや重要ではなくなっているため、国民の教育水準は実際、下降の一途をたどっている。
大衆の意見は関心を払う必要がないと思われている。彼らには知性が全くないので、知的自由が与えられている。
党メンバーに対する考え
わずかな見解の歪みですら、見過ごされてはならない。
党メンバーは生まれてから死ぬまで思考警察の監視下で生きて行く。
一人でいる時ですら、テレスクリーンにて監視される。
そして、将来の時点で詰みを犯すかもしれない人々を一掃しようとする。
党のメンバーは、私的感情を一切持ってはならないが、同時に党に対する熱狂状態から醒めることのないように求められる。
満足感を与えてくれない最低限の生活から生まれた不満は、意図的に外(異国の的や自国の裏切り者)に対して向けられ、二分間憎悪((のようなもので発散させられてしまう。
⑵思想・教育
社会主義革命に引き続きて誕生した思想「イングソック」に基づく。
この時代におけるすべての信念・習慣・嗜好・感情・心的態度は実際は党の神秘的雰囲気を維持し、社会の真の性質が見抜かれることを防ぐために構想されている。
反乱・反乱に先立ついかなる行動も、ありえない。
犯罪中止=自己防衛的愚鈍
危険な思想を抱きそうになった瞬間にあたかも本能によって、その一歩手前で踏みとどまれる能力。
イングソックに取って有害な議論であれば、どれほど単純な議論であっても誤解する能力。
異端へと導くような一連の思考に対しては退屈したり不快感を覚えたりする能力が含まれる。
二重思考=二つの相矛盾する信念を心に同時に抱き、その両方を受け入れる能力。
意識を無意識の状態が同時に存在できる思考法である。
背景としては、オセアニアの国では、ビッグ・ブラザーは全能であり、党は誤りを犯さないという信念の上に成立している。
ただ、BBも党も誤りを犯さないわけではないので、事実の処理においては誤解する能力が必要である。
つまり、黒を白と信じ込む能力
さらには、黒は白だと知っている能力
かつてはその逆を信じていた事実を忘れてしまう能力のことである。
その要領は、他の精神的技術と同様に習得可能である。
過去は変えることができるし変わりやすい。
過去は記録と記憶が一致したものであれば何であれ、それはすなわち過去である。
相容れない矛盾を両立させる二重思考の計画的な実施によってのみ、権力は無限に保持され、昔からの歴史の循環を断ち切ることができる。と考えられている。
ニュースピークという新たな言語
あらゆる意味合いやニュアンスが削ぎ取られた新しい言語が使われている。ニュースピーク施工により、反政府的な言語が消滅し、よって、反政府的な発言や思考や表現ができなくなる。
⑶過去の歴史を踏まえて革新的な体制であるイングソックとは
党が権力を求めるのはひたすら権力のため。純粋な権力が関心の焦点である。
過去のすべての寡頭政体と異なる点は、行いに対して自覚的であること。
その他は似ていても、臆病者と偽善者の集まりだった。
権力とは…
権力は集団を前提とする。個人が個人であることを止めた時、初めて権力を持つ。
真の権力とは、人の精神を支配する権力である。
人間の精神をズタズタにし、その後で改めて党の思うがままの形に作り直すこと。
その果てに生まれる社会
自分のアイデンティティを脱却し、自分が党になるまで没入できれば、その人物は全能で不滅の存在となりうる。
芸術・文学・科学・美・醜・日々の面白さ・喜びはすべて破壊される。
だが常に、人を酔わせる権力の快感だけは常に存在し、増大し、ますます鋭くなる。
そのためのツールとして施工しているツール
テレスクリーンによる完全なる監視
二重思考という思考方法
ニュースピークという思考を制限させる新たな言語の施工
スローガン
戦争は平和なり
自由は隷従なり
無知は力なり
このスローガンさえも、イングソックの秩序においては正統なのである。
言葉
昔の専制君主「汝、なすべからず」
全体主義の命令「汝、なすべし」
イングソックの命令「汝、これなり」